書けない理由は「ネタ不足」ではない
「ESがまったく書けない」「何を書けばいいかわからない」――これは多くの就活生が一度はぶつかる壁です。多くの学生が「自分にはアピールできるような経験がないからだ」と考えますが、それは本質的な問題ではありません。
ESが書けない最大の理由は、“考えるプロセスが曖昧なまま書こうとしていること”です。言い換えれば、「何を」「どんな順番で」「どう伝えるか」が整理されていないまま、とりあえずパソコンを開いている状態です。これでは当然手が止まります。
素材がないのではなく、素材を見つける“探し方”や“整理の仕方”を知らないだけです。文章力ではなく、考える力・構造化する力がカギなのです。
書き始めのハードルを感じる人の共通点
ESが書けない人の多くは、「完璧な文章」を最初から書こうとしてしまいます。まず一文目をどう書くかで迷い、最初の体験をどう選ぶかで悩み、結局進まずに時間だけが過ぎていきます。
この原因は、「正解を探そうとする姿勢」にあります。就活では何が正解か分からないため、書くことに対して不安が募ります。しかし、ESにおける“正解”は、「あなたが何を伝えたいか」以外には存在しません。
正解よりも、まず自分の考えを形にすることが大切です。完璧さではなく、“自分の考えを一度外に出す”という行動からすべてが始まります。
書けるようになる人がしている準備とは?
では、ESをスムーズに書ける人は何をしているのでしょうか?共通しているのは、「いきなりESを書いていない」ということです。
彼らはまず、以下のような下準備を行っています。
自分の経験やエピソードを時系列で書き出している
それぞれの出来事で“自分がどう動いたか”を整理している
志望企業の求める人物像と、自分の経験を照らし合わせている
このように、「考えるプロセスを文章にする前に設計している」ことがポイントです。書くことはその最終工程であって、最初の工程ではありません。
思考を“構造化”すればESは書ける
思い出す→選ぶ→並べる→伝える の4ステップ
ESが書けないと感じている人に有効なのが、“思考をステップに分けて考える”ことです。以下の4ステップを意識するだけで、驚くほどスムーズにESが書けるようになります。
思い出す:自分の学生生活で印象的だった経験をすべて書き出す
選ぶ:企業が求める人物像と重なる経験を選定する
並べる:経験の中で自分がどんな行動をし、どんな変化があったかを順番に整理する
伝える:企業に刺さる言葉で言い換えて表現する
この順番を守るだけで、ESは構造的に仕上がり、読み手にとっても分かりやすくなります。
書くための素材探し:自分の過去を「動詞」で掘り起こす
素材探しで有効なのが、自分の過去を「動詞」で掘り起こす方法です。たとえば、「考えた」「動いた」「変えた」「作った」「続けた」などの動詞をもとに、自分の行動を掘り起こしてみてください。
例:
考えた:サークルの新歓企画で他校との差別化を検討した
動いた:アルバイトでマニュアル外の改善提案を行った
続けた:苦手だった英語を半年でTOEIC200点アップさせた
こうした行動の中に、あなたの“らしさ”が詰まっています。ESはエピソード自体の派手さよりも、あなたがその中でどう動いたかが見られているのです。
書けない自分に焦る必要はない
ESが書けないのは、自分がダメだからでも、就活が遅れているからでもありません。むしろ、「本気で向き合おうとしているからこそ手が止まる」という面もあります。
焦りや不安を否定せず、「じゃあ何から手をつけるか?」と段階的に取り組むことで、どんな学生でも必ずESは書けるようになります。文章力ではなく、“考え方”の整理が最初の一歩です。
書くネタを“選ぶ”という最大の関門を突破する
「盛れている経験」ではなく「動きのある経験」を選ぶ
ESを書こうとするとき、つい「派手な経験」「わかりやすくすごい成果」に目が行きがちです。しかし、企業の採用担当者が見ているのは、表面的な経験ではなく、その中でどんな思考と行動をしたのかです。
だからこそ、「海外留学」「全国大会」「起業経験」などがなくても問題ありません。むしろ、地道に継続したアルバイト、地方のイベント運営、学内の小さな活動などの方が、あなたの人間性をリアルに伝えられるケースも多いのです。
重要なのは、成果ではなく“行動の過程”にあるという視点です。
自分の行動エピソードを「構造化」する思考マップ
エピソードを選んだら、そのまま書き始めるのではなく、まずは構造的に整理する作業が必要です。ここでは、次の4つの軸で整理すると分かりやすくなります。
背景:どんな状況・課題・環境だったか?
目的:何のために動いたのか?何を目指したのか?
行動:どんな工夫や努力をしたのか?
結果と学び:どうなったか?何を得たか?
このフレームに沿って経験を“骨組み”として分解してみることで、単なる「思い出の羅列」ではなく、筋道のあるストーリーとしてESを書き出せるようになります。
素材選びの視点を「企業が見ている力」に合わせる
就活は、自分が言いたいことを伝えるだけではなく、「企業が求める力に合わせて、自分の経験を翻訳する」ことが欠かせません。
たとえば、企業が求めているのが「チームワーク」や「課題解決力」であるなら、あなたの経験の中でそれが最もよく表れているエピソードを使う必要があります。逆に、いくら努力したエピソードでも、求められていない能力ばかりが目立ってしまうと、企業との“接点”が見えません。
素材選びにおいては、「自分が伝えたいこと」だけでなく、「企業にとって評価される力は何か?」という視点を必ず持ちましょう。
読まれるESに必要な構成とは
伝える順番に“意図”を持たせる
ESの構成は、いわば「プレゼン」です。言いたいことがどんなに良くても、伝える順番や論理展開がバラバラだと、伝わる印象は半減します。
基本となる順番は以下の通りです:
結論(テーマ・成果)
背景(どんな場面だったか)
課題・目的(何が問題で、どうしたかったのか)
行動(どう動いたのか)
結果(どうなったか)
学び・今後にどう活かすか
この構成は、「読み手が納得しやすい」順番です。特に最初の一文でテーマを提示することは重要で、読み手に「このESはどんな話なのか」を最初にイメージさせることで、集中して読み進めてもらえます。
余白や“行間”に見える人間性を意識する
文章の構成や論理性も大切ですが、それ以上に企業が見ているのは、ESからにじみ出る人間性です。「この人はどんな価値観で動いているのか?」「どこに向かおうとしているのか?」という本質的な部分が、行間から伝わるかどうか。
そのためには、「自分がどう感じて、どう考えたか」を曖昧にせず、具体的に言語化することが大切です。たとえば「努力した」ではなく、「どんな環境下で、どんな気持ちを乗り越えながら、どういう工夫をして続けたのか」まで書き切ること。
この“深掘り”こそが、読み手に「あ、この人と話してみたい」と思わせる鍵になります。
型にとらわれすぎず、自分の言葉で語る
構成やテンプレートは、あくまで“考えを整理する補助ツール”です。それに縛られてしまい、「よくあるESっぽい文章」にしてしまうと、かえって印象が薄れてしまいます。
企業は、何百、何千のESを読みます。その中で「この人だけの言葉」で書かれたESは、必ず目に留まります。
たとえば:
「私はリーダーを経験しました」よりも
「自分より優秀なメンバーをどう支えるか悩み続けた時間が、今の私を作りました」
のほうが、はるかに個性が伝わります。
伝わるESの鍵は「翻訳」と「共感」
ESは「自分語り」ではありません。読み手が企業である以上、“相手に伝わる言葉で語る”ことが重要です。
つまり、自分の経験や考えを、企業の視点に立って“翻訳”する必要があります。企業が読みたいのは「あなたがどう会社に貢献できるか」であり、その根拠がESのエピソードに含まれている必要があります。
そのうえで、「この人の考え方、共感できるな」と思わせることができれば、次のステップ(面接)につながります。
書いたESを“通過するES”に仕上げるには?
書き上げて満足するのは、もったいない
エントリーシートが書き終わった時点で達成感を感じる人は多いですが、それはまだ“スタートライン”に立ったに過ぎません。実際に企業の選考で通過するためには、そのESが「読み手に届くか」「魅力が伝わるか」という視点で見直す必要があります。
自分の頭の中では理解できている内容でも、読み手には伝わっていないということがよくあります。とくに、結論が曖昧だったり、行動の意図が不明瞭だったりすると、印象に残りづらいESになってしまいます。
「書いたES」から「通るES」へと仕上げる作業が、内定への分かれ道になります。
読み返し時のチェックポイントを持つ
ESの完成度を高めるには、ただ読み直すだけでなく、「チェック観点」を持ってレビューすることが重要です。以下の観点で一つひとつ見直しましょう。
主語が明確か?(「何をしたか」の主体がブレていないか)
結論が最初に提示されているか?(読み手が迷子にならないか)
成果や結果が具体的か?(「頑張った」だけで終わっていないか)
企業が知りたい情報が入っているか?(汎用的すぎないか)
読みやすい文の長さか?(一文が長すぎないか)
このような観点をもとに推敲することで、「書けたけど伝わらないES」を「読み手の心に届くES」に変えることができます。
フィードバックは“違う目線”から受けるのが効果的
自分だけでESを見直すと、どうしても「書いたときの意図」が頭に残っており、客観的に見られなくなります。そこで有効なのが、他人からのフィードバックを受けることです。
同じ就活生(読み手としての感想をもらえる)
大学のキャリアセンター(文章の構成や採用視点のアドバイス)
就活支援サービスやエージェント(業界ごとの傾向を加味した指摘)
それぞれの立場から異なる視点をもらうことで、文章に潜む“伝わらなさ”の原因を発見できます。特に、初見の人が「なぜこの行動をしたのかが分からない」と感じる部分は、面接でも突っ込まれやすいポイントなので要修正です。
志望企業ごとの“最適化”が内定への鍵
ESは“コピペ”ではなく“翻訳”が必要
よくある失敗が、「一度完成したESをそのまま複数社に使い回す」ことです。確かに効率は良くなりますが、企業側から見れば「どこにでも出しているES」に見えてしまうため、熱意やマッチ度が伝わりません。
大切なのは、「企業ごとに少しずつ翻訳していく」こと。企業の事業内容、風土、求める人物像を理解した上で、同じエピソードでも言葉の選び方や強調するポイントを調整する必要があります。
たとえば:
ベンチャー企業なら「スピード感」「自走力」
大手企業なら「安定した実行力」「周囲との連携力」
といったように、伝えたい強みの見せ方を企業に合わせて調整することが有効です。
“志望動機”はES全体の中に溶け込ませる
ESにおいて「志望動機」を分けて書く場合もありますが、より自然で説得力のあるESに仕上げるには、自分の経験や価値観と、企業の特徴が“つながっている”ことを本文の中で伝えることが重要です。
つまり、「私がこのような行動をとった背景には、こうした価値観がある」→「だからこの企業に強く惹かれている」といった流れで、動機が経験と一貫していることを示すのです。
企業は「あなたが活躍できそうか」を見ています。その判断材料として、志望動機の“根っこ”がどこにあるかが問われています。
読み手を動かすには“描写”と“リアルさ”が必要
体験を“映像的に伝える”と伝わりやすい
文章で読まれるESでは、イメージが湧く描写が効果的です。たとえば以下のように、“動きのある言葉”や“状況が浮かぶ表現”を入れることで、読み手の印象に残る文章になります。
「私はイベントの前日、200人分の会場レイアウトを一人で深夜まで調整していた」
「アンケート結果を集計し、壁一面に付箋で分析データを貼り出した」
このように具体的な描写があると、読み手の頭の中に「場面」が浮かび、あなたの行動や工夫に“説得力”が生まれます。
共感されるESは「弱さの開示」から始まることもある
ESというと、自分の強みや成功体験だけを書くイメージがありますが、実は「失敗からの学び」「迷った経験」など、“人間らしさ”を感じる要素も評価されやすいです。
たとえば、
「最初は成果が出ず、やる気を失っていた時期があった」
「自分より優秀な同期と比べて、劣等感を抱いていた」
といった弱さを隠さずに書き、その中で「どう立て直したか」を示せば、逆に信頼感や親近感が生まれるのです。
企業は「強い人」よりも「成長できる人」を求めています。その意味で、“変化のプロセス”を語れることがESにおいて非常に価値のある要素になります。
ESは面接の“設計図”になる
面接官はESから何を読み取ろうとしているか?
企業がESを活用する目的は、単に文章力や経験を見るためではありません。ESは面接で深掘りするための設計図であり、面接官が「この学生に何を聞くべきか」を見極めるための材料です。
つまり、ESには「面接での質問の種」が詰まっているのです。したがって、書いた内容に対して面接で深く聞かれる前提で、すべてを説明できるようにしておく必要があります。それができていないと、面接で詰まり、「本当は違うのかな?」という不信感につながる可能性もあります。
重要なのは“根拠を語れること”
面接での評価が大きく分かれるのは、ESに書かれた行動や結果に対して「なぜそうしたのか」「どう考えていたのか」という思考の背景まで語れるかどうかです。
例えば、
「○○を頑張りました」だけでは不十分
「なぜその行動を選んだのか」
「何を課題と捉えて、どのように対処したのか」
「なぜその結果になったのか」
こうした“根拠ある行動”の説明ができるかどうかで、面接官の印象は大きく変わります。逆に言えば、そこまで語れる設計になっていないESは、面接で不利になります。
「会ってみたい」と思わせる文章の特徴
意思が明確なESは記憶に残る
企業が「この学生に会ってみたい」と感じる瞬間は、その学生の意思や価値観が明確に伝わったときです。ただ行動を書くだけではなく、「なぜそれを大切にしているのか」「それが将来どう活きるのか」という軸を言語化できているかがカギです。
たとえば、
「私は◯◯という価値観を大切にしてきました」
「その価値観に基づき、××という行動を選びました」
「その結果、△△という学びがあり、御社でこう活かしたいと考えています」
このように、一貫性のある構成で書かれたESは、読み手に強く印象を残します。自己主張ではなく、価値観の共有が“共感”を生むのです。
志望動機と経験の一体化が鍵になる
ESの中で「志望動機」を語る場面では、企業研究の知識や言葉を並べるだけでは不十分です。企業が求めているのは、自社で活躍できる“人”としての納得感です。
そのためには、次のような構造が有効です:
自分が大切にしてきた行動・価値観
それが企業の方針やビジョンとどのように重なるか
自分が入社後に実現したい具体的なイメージ
このように「経験」と「志望」が繋がっていると、面接でも話しやすくなり、企業側も“ミスマッチのリスクが少ない”と感じるのです。
面接を想定した“答えられるES”の作り方
自分への質問リストを作ってみる
書いたESに対して、「自分ならどんな質問を受けそうか」をリストアップしてみましょう。例としては:
「なぜその活動に参加したのですか?」
「その中で最も苦労した点は?」
「成果はどのように評価されましたか?」
「チームの中でのあなたの役割は?」
「今振り返って、何が良かったと思いますか?」
こういった問いに対して即答できるように準備しておくと、面接では動じずに対応できます。ESとは、“聞かれても良いことだけを書く”という前提を持つべきなのです。
想定外の質問にも耐えられるか?
面接では、ESに書いた内容に関して、少しずらした切り口の質問が飛んでくることがあります。たとえば:
「もしそのプロジェクトが失敗していたら、何が原因だと思いますか?」
「その経験を今後にどう活かせると思いますか?」
こうした問いに対応するには、「表面的な結果」ではなく「深い内省」ができているかどうかが重要です。書き上げたESに対して、“別の角度からの質問”を自分で投げてみることで、弱点の修正や深掘りの練習ができます。
全体のまとめ:通るESは「伝える力」より「設計力」
エントリーシートは、「書けた」ことではなく、「伝わったかどうか」がすべてです。うまく書こうとするのではなく、考え方の設計と、価値観の一貫性をもって言語化することが最終的な勝敗を分けます。
これまでの内容をまとめると、内定につながるESを作るには次のような要素が求められます:
経験の選び方に戦略がある(企業との接点がある)
思考や行動の背景が具体的に語られている
面接で深掘りされても答えられる設計になっている
読み手が「会ってみたい」と感じる価値観が示されている
ESは、書いて終わりではありません。面接の起点として、企業との対話を生む“設計図”です。だからこそ、文章の完成度よりも、「考え抜いた証拠」があるかどうかが最も重要なのです。